夕暮れの温泉街、浴衣の罠
秋風が心地よい十月の土曜日、午後五時すぎの歴史ある温泉街でのことだ。週末の観光客で川沿いの遊歩道は賑わっており、浴衣姿の人々が楽しそうに散策していた。私は友人と温泉を楽しんだ後、湯上がりの火照った身体で地ビールや名物の温泉饅頭を食べ歩きしていたが、これが完全に裏目に出てしまった。
最初の異変は、川沿いの橋の上で写真を撮っている最中に訪れた。下腹部の奥深くで、ズシンと重い地鳴りのような便意の第一波が静かに鳴り響いた。湯上がりで油断していた胃腸が、冷たいビールと川風によって急激に冷やされたのが原因だった。
私はその日、宿で借りた薄手の藍色のコットンの浴衣を着用し、足元は素足に木製のゲタを履いていた。髪は温泉に入るためにアップスタイルに留めていたが、腹痛の焦燥感から全身に噴き出した冷や汗で首元がじっとりと濡れ、浴衣の襟元が皮膚にはりつく。綺麗に整えていたはずのメイクも脂汗で浮き上がり、顔面からは血の気が完全に引いて白くなっていた。
温泉街の遊歩道は人通りが多く、近くの公衆トイレは清掃中のため閉鎖されているという絶望的な状況だった。浴衣 the 裾が乱れないように上品に歩かなければならないという社会的羞恥心と、ゲタの歩きにくさが、私を現場という名の檻に縛り付けていた。
便意の波は容赦なく第二波、第三波と押し寄せ、括約筋はすでに限界値を迎えていた。浴衣の生地を両手でギュッと握りしめ、両腿をこれでもかと密着させ、膝を内側に極端に曲げて、もじつきながら全身を小刻みに震わせていた。ゲタのつま先に力を込め、お尻の筋肉を極限まで硬直させた。
「あと五分、宿まで持ってくれ……」と、頭の中で狂ったように秒刻みの計算を繰り返すが、お腹の奥が痛むたびに心臓が激しく脈打ち、焦りで頭が真っ白になった。恥ずかしさと、この大衆の面前で今にも漏らしてしまいそうだという恐怖が混ざり合い、耳の奥が熱くなって喉がカラカラに渇いた。
見てはいけないと思つつも、自分の限界の太も目の震えと、浴衣の裾が不自然に揺れるスリルの中で、心臓は早鐘のように脈打っていた。
ようやく宿のロビーにたどり着いた瞬間、私はゲタを放り出すようにして、お尻をかばう極端な内股の姿勢でフロントを通り過ぎ、トイレに駆け込んだ。便座に腰を下ろし、一気にすべてが放出された瞬間の凄まじい解放感。今でも温泉街の風情ある下駄の音を聞くたび、あの時の冷や汗と股の奥がすくむような恐怖を思い出す。
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※ 掲載されている話は、読者投稿・創作をもとにした読み物(フィクション)です。実在の人物・団体・場所とは一切関係ありません。
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