夕暮れの快速急行、トンネルの沈黙
肌寒い十一月の夕方五時すぎ、私は帰宅ラッシュが始まりかけた快速電車の車内にいた。いつもより混雑した車内は暖房が効きすぎており、乗客たちの体温も相まって息苦しいほどの空気だった。最初の異変は、急行の停車駅を出発した直後の、下腹部に走ったズキリとするような便意の第一波だった。
「次の停車駅まであと十五分……それくらいなら耐えられるはず」と自分に言い聞かせたが、それが地獄の始まりだった。乗車前に駅のホームの売店で冷たいお茶を飲み干したばかりだったことを思い出し、後悔が押し寄せる。胃腸はすでに冷やされており、急激な下痢の波が限界を主張し始めていた。
私はその日、ウールのキャメル色のロングコートに、黒のタイツと茶色のレザーショートブーツを合わせていた。首元にはマフラーを巻いており、体温の上昇とともに冷や汗が全身から噴き出してくる。ハーフアップに結んだ髪の生え際から汗が伝い、ファンデーションが脂汗で浮き上がっているのが分かった。吊り革を握る私の両手は、緊張と恐怖で白くなり、指先がカタカタと震えていた。便意の第二波が襲うたび、私はタイツの中で内ももをぎゅっと押し付け合い、つま先立ちになってお尻の筋肉を極限まで硬直させた。
周囲の乗客の肩がぶつかるたびに、下腹部に電流が走るような激痛が走り、私は思わず顔を引きつらせ、唇を強く噛み締めた。
私の頭の中は、次の駅までの残り時間と、そこからトイレまでの距離の計算で完全に支配されていた。「あと何分? あと三駅……いや、信号待ちで緊急停車するかもしれない」。そんな想像をするだけで、括約筋のコントロールを失いそうになる。満員電車の密室という、絶対に逃げ出せ��い社会的状況が私の精神を追い詰めていく。今ここで漏らせば、大人の社会人としての尊厳は完全に失われる。その恐怖から、心臓はドラムのように激しく打ち鳴らされ、息を吸うことすら困難になっていた。お腹の中で暴れる便意の波は、もはや誤魔化しの利かない第三波に達しており、下腹部を両手で強く押さえ込みながら、上体を深く折り曲げて耐えるしかなかった。
恥ずかしさと、極限状態で耐えるスリルが頭の中で混ざり合い、耳の奥がカッと熱くなっていく。周囲の乗客に見られているかもしれないという羞恥心が、余計に便意を刺激した。
ようやく電車が駅に滑り込み、ドアが開いた瞬間、私は人混みを押し分けてホームへ飛び出した。しかし、走ろうとした衝撃で腸が大きく動き、その場で一歩も動けなくなる。涙目でカバンをお腹に押し当て、すり足のような内股のまま、構内の多目的トイレへと滑り込んだ。便座に座り、温かいものが勢いよく放出された瞬間の、頭が真っ白になるほどの解放感。今でも電車の非常ベルを聞くたび、あの時の冷や汗の冷たさと、股の奥がキュンとすくむような恐怖を思い出す。
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