コインパーキングの精算機の裏。音でわかった惨事
これは冬。2月の3時すぎ。クラブ出て友達と別れて、コンビニ寄った帰り道。夜明け前の繁華街の外れ。息が白い。人通りはほぼゼロ。タクシーも通らない時間。
コインパーキングの前を通りかかったら、精算機の裏あたりから、うめき声。酔いつぶれてるのかと思ってスルーしかけたら、街灯の下に女の人。30前後、仕事帰りっぽいベージュのコートにタイトスカート、肩までの黒髪、ヒール。飲み会からの午前様って感じの、きれいめなお姉さん。
その人がヒール履いたまま中腰でガニ股歩き。一歩ごとに立ち止まって、お腹押さえて、また進む。顔は遠目にも真っ青。額のあたりテカってたから、冷や汗だと思う。
精算機の陰で一回止まった。行けるか行けないか、自分と交渉してる間。コートの裾を片手で握って、もう片手で精算機の角を掴んでた。きれいなネイルの指が白くなるくらい。ヒールのかかとが地面で小刻みに鳴ってた。深呼吸を2回。一瞬持ち直したように見えた。でも次の波が来たんだろうな。腰が急にくの字に折れて、そこから車の陰までの数メートルが早かった。しゃがみこんだ。
で、音。あれは、アウトな方の音だった。プスプスいってた。止まって、また続いて。冬の静かな駐車場に、それだけが響く。おれは足早に通過。振り返らないのがマナー。てゆーか、こっちまで心臓バクバクして、聞いちゃいけないもん聞いてる感じが凄かった。サイテーな夜に居合わせただけ。
5分後、同じ道を戻ったら(コンビニに手袋忘れた)、もう誰もいなくて、車の陰に紙ナプキンの山だけ残ってた。せめて持ち帰れよとは思った。けど、あの限界の顔思い出したら、責める気にもなれない。
冬の朝の空気って、色んなもん凍らせてくれるからまだマシ。夏だったら詰んでた。人の限界って、ああいう静かな夜に、あっさり来る。あの人、ちゃんと家帰れたかな。今でも2月の明け方の空気吸うと、あの音、思い出す。忘れらんないもんって、そういうやつ。
― この話は、これにて ―
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※ 掲載されている話は、読者投稿・創作をもとにした読み物(フィクション)です。実在の人物・団体・場所とは一切関係ありません。
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