排泄物語

秘湯へ続く山道で出くわしてしまった先客の事情

投稿者: 圏外の温泉宿1分で読めます閲覧 9134.2(6件)

山あいの一軒宿を目指して、バス停から40分の山道を歩いていた時のことでございます。5月の新緑が美しく、沢の音を聞きながらの一人旅。静寂。鳥の声。足音。

道が大きくカーブする所で、ふと視線を上げますと、10メートルほど先の杉の木の根元に、リュックを背負ったままの女性がしゃがんでおられました。年は50代くらい。登山帽をかぶった、明らかに山慣れした方。最初は山野草の写真でも撮っておられるのかと思ったのです。けれど近づくにつれ、腰の位置と、足元に広がる様子で察しました。ああ。そういうことか。

私は慌てて咳払いをひとつして、目を伏せてすれ違いましたが、あちらも「ごめんなさいね、この道お手洗いがなくて」と、意外なほど朗らかに仰るのです。羞恥心がない。むしろ平然としている。山を歩く方には日常なのでしょうね。こういう状況も。

宿に着いてから女将さんに伺うと「この道はみなさんそうよ」と笑っておられました。トイレなき山道。歩く人は皆、覚悟を決める。その先にある秘湯のために。自然とはそういうもの。人間とはそういうもの。

秘湯の湯より、山のおおらかさが心に沁みた旅でした。人間、自然の前では小さい。その中で生きる。その中で排泄する。全部が連続している。

― この話は、これにて ―

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掲載されている話は、読者投稿・創作をもとにした読み物(フィクション)です。実在の人物・団体・場所とは一切関係ありません。

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