相棒が資材置き場の陰で果てた日
10年一緒にやってる相棒の鉄筋屋の話だ。夏の現場でよ、昼メシに屋台の弁当食ったのが当たったらしい。牛肉が少し色変わってたって後で聞いた。午後イチの作業中に顔色が変わってな。階段の上で一瞬止まって、「ちょっとヤベえ」って言って足場を降りてった。
仮設トイレは敷地の反対側、歩いて3分だぞ。だけどあいつの歩き方見て、こりゃ持たねえなと思った。内もも寄せて、腰を引いて、ちょっと猫背になってる。あれは腹下してる奴の歩き方だ。案の定、資材置き場の山の陰に消えた。単管パイプの陰だ。見張りの奴らも気づいてなかった。
おれは見なかったことにして作業続けたぞ。10分後、戻ってきたあいつの顔は妙にサッパリしてた。額には汗だくだけど、目の焦点が戻ってた。「おう」「おう」で終わりだ。それが男ってもんだぞ。
ただな、あいつは律儀なやつでよ、休憩時間にスコップ持って資材置き場に戻って、ちゃんと埋めて処理してた。土を被せて、ならして、何事も無かったみたいにしてた。監督にもバレてねえ。おれだけが知ってる。
今でも飲むとその話でからかうけどな、あいつは「腹壊した時の3分は普段の30分だぞ」って真顔で言うんだ。あの言葉の重さ。資材置き場の陰で、男のプライドと排泄の戦いをした奴だけが言える言葉だと思うぞ。名言だと思うぞ。それ以来、屋台の弁当は色をしっかり見てから食べるようにしてる。
― この話は、これにて ―
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※ 掲載されている話は、読者投稿・創作をもとにした読み物(フィクション)です。実在の人物・団体・場所とは一切関係ありません。
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