真冬の峠の下りで、膀胱が先に音を上げた話
1月の話。走行120km予定、出発時気温3度。冬のライドは発汗が少ないぶん、飲んだ水分が全部膀胱に集まる。これは物理だ。分かっていたはずなのに、判断を誤った。
その日はボトル1本を90kmでほぼ飲み切ってた。90km地点の峠の頂上、標高650m。ここの公衆トイレで小用を済ませるのが計画だった。だが着いてみると、ドアに板が打ち付けてある。冬季閉鎖。貼り紙は12月の日付だった。この時点で膀胱は7割。嫌な予感はあった。だが選択肢がない。
ここで判断ミス。「下りきれば道の駅まで18km、30分持つ」と計算した。平地の30分なら余裕だ。だが下りの寒さを計算に入れてなかった。時速40kmの向かい風、体感マイナス5度。冷えは膀胱を直接殴ってくる。下腹の奥がキュッと締まる感覚が、下りに入って1kmもしないうちに来た。第一波。まだいける。5km下って第二波、これが重かった。ハンドルを握る手に無駄な力が入る。
残り10kmで限界が来て、残り6kmでダンシングすらできなくなった。サドルに座ると圧がかかる。立つと腹筋に力が入る。詰みだ。膝が小刻みに震え、ブレーキングのたびに減速Gで下腹が悲鳴を上げる。信号がないことだけが救いだった。あと何分、あと何km、時速いくつなら何分──頭の中の計算が、波が来るたびに崩れていく。道の駅までの18kmという数字が、こんなに遠い数字だったとは。
最後は神頼みだった。次の橋まで持ってくれ、次のカーブまで。自分の膀胱と交渉しながら走るロードバイクほど惨めなものはない。
結局、残り4km地点の橋の下に緊急ピットイン。ほぼ落車みたいな停め方だった。川原の茂みで悴んだ指がレーパンのウエストに引っかかり、この数秒で本当に終わるかと思った。間一髪だった。放出時間、体感90秒。実測でも60秒はあったと思う。
湯気がすごかった。真冬の川原に白い湯気が立ち上るのを眺めながら、安堵と情けなさが同時に押し寄せてきた。指先の感覚が戻るまで5分、橋の下でぼんやりしてた。
冬ライドの教訓、トイレはあるうちに行け。膀胱は気温に負ける。閉鎖情報はルートラボじゃわからん。
― この話は、これにて ―
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※ 掲載されている話は、読者投稿・創作をもとにした読み物(フィクション)です。実在の人物・団体・場所とは一切関係ありません。
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