獲得標高1200mの代償。山中で人生初の野グソを決めた日
去年の6月、走行距離160km・獲得標高1200mのロングライドでの話。朝5時出発、気温18度、湿度高め。補給は羊羹2本とジェル3個、ボトル2本。前夜にルートを引いて、コンビニと自販機の位置も全部頭に入れてた。計画は完璧だったはずだ。腹の中以外は。
60km地点までは何の問題もなかった。ペースも予定通り、脚も回ってた。異変は80km地点、2本目のヒルクラム区間の途中で来た。前夜のカレーが原因か、朝の冷たい牛乳が引き金か、今でも分からない。最初は軽い違和感。ガスかな、程度のやつ。それが10分後には下腹の奥で鈍く重い波に変わってた。
ここで問題がひとつ。山中のルートで、最寄りのコンビニまで下って12km。公衆トイレは頂上の先の展望台までない。つまり登り切るしかない。地図上のたった数kmが、この時ばかりは絶望的に遠く見えた。
斜度8%を登ってる最中に、波が3分間隔で来るようになった。ケイデンスどころじゃない。第一波をやり過ごし、第二波を腹筋で耐え、第三波で額の汗が冷や汗に変わった。太もも同士を締めながらペダルを回すという矛盾した運動を強いられる。サドルから腰を上げると腹圧が抜けて危ない。座ると路面の振動が直撃する。詰んでる。次のカーブまで、次のカーブまで、と自分に言い聞かせるが、波は確実に間隔を縮めてくる。
判断は早かった。というか、体が判断した。ガードレールの切れ目から杉林に入り、バイクを倒し、ビブショーツと格闘した。ビブは上半身から脱ぐ構造なので緊急時は本当に地獄だ。ジャージのジッパー、肩紐、全部が敵に回る。震える手で、頼むから間に合ってくれと本気で祈った。あの30秒は人生で一番長い30秒だった。
ジャージ半脱ぎで事に及んだ。詳細は省くが、持っててよかった携帯ティッシュ、そして穴を掘ったチェーンレバー(あとで消毒した)。終わった瞬間、杉林の匂いと風の音が急に戻ってきた。解放感は、正直どのヒルクラムのゴールよりも深かった。
処理も埋めて完璧。復帰後のヒルクラムはなぜか過去最高に踏めた。体重が減ったからだと思ってる。STRAVAのセグメント、その区間だけ自己ベストだった。誰にも言えない自己ベストだ。今でもあの杉林の前を通ると、少しだけ速度が上がる。
― この話は、これにて ―
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※ 掲載されている話は、読者投稿・創作をもとにした読み物(フィクション)です。実在の人物・団体・場所とは一切関係ありません。
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