ブルベ400kmで見た、深夜のPCに散った参加者
400kmブルベに出た時の話。深夜2時、260km地点のPC(チェックポイントのコンビニ)でのこと。気温は一桁、駐車場の照明だけがやたら白く浮いてて、客はブルベ参加者しかいない、あの独特の時間帯だった。
おれがレシートをもらって外の縁石に座り、羊羹をかじってると、後続の参加者が到着した。40代くらいの男性、ヘルメットのライトが乱れて、フォームもガタガタ。260km走ってくれば誰でも疲れるが、あれは疲労の乱れじゃなかった。降車の仕方で分かる。トップチューブをまたぐ動作が異様に慎重で、腰が引けてる。腹に爆弾を抱えた人間の降り方だ。
バイクをラックに立てかけるのももどかしい様子で、ヘルメットも外さずトイレに直行。しかし個室は先客あり。ドアの前で足踏みを2回、天井を見上げて深呼吸をひとつ。あの数秒すら耐えられない顔をしていた。おれは補給の手が止まって、目が離せなかった。ああいう時、人間の顔は本当に白くなるんだと知った。
彼はコンビニの外に出て、店舗裏の暗がりへ消えた。何をしに行ったかは聞くまでもない。
5分後、戻ってきた彼と目が合った。顔色はまだ悪いのに、どこか憑き物が落ちたような、妙にすっきりした表情だった。「間に合いました?」と聞くと「ギリギリ、外で。最悪だ」と苦笑い。そのあと店内で、おにぎりと一緒に胃腸薬を買ってた。ブルベあるあるだ。深夜帯は内臓が弱る。
250km超えると消化力が落ちて、補給食が腹で暴れ出す。おれも過去に2回、山中で緊急停車してる。あの、まだ間に合うか間に合わないかの数分間の顔つきは、走ってる人間なら誰でも見覚えがあるはずだ。他人の限界は、明日の自分の限界だ。だから笑えないし、だから忘れられない。
彼はその後、無事に完走したらしい。ゴール後のSNSで「二度と深夜に唐揚げは食わない」と書いてた。教訓は共有財産だ。おれは次のブルベから、深夜のPCでは揚げ物を買わなくなった。あの白い顔は、下手な補給理論より説得力があった。
― この話は、これにて ―
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※ 掲載されている話は、読者投稿・創作をもとにした読み物(フィクション)です。実在の人物・団体・場所とは一切関係ありません。
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