巡回報告:多目的トイレ内で発生した惨状の件
商業施設の警備員をしている。閉店後の巡廻中に発見した事案を、記録の意味で報告する。
12月の第2金曜、22時10分。閉店後のB館3階を巡廻中、多目的トイレの扉が半開きになっているのを確認した。照明は点灯したまま。規定により内部を確認したところ、便器周辺の床に相当量の汚物が散乱している状況を確認した。便器内には未処理の排泄物。ペーパーホルダーの紙は空転した状態で床まで垂れ、手洗い場の水は出しっぱなしであった。現場は、一言で云えば、戦いの跡であった。
状況から再現するに、利用者は限界状態で駆け込み、施錠と着衣の処理に要する数秒が残された猶予を上回った、つまり便器まであと一歩のところで決壊したものと思われる。床の汚損の分布がそれを物語っていた。その後、本人なりに紙で対処を試みた形跡はあったが、途中で心が折れたのであろう。気持ちは分かる。あの状況で冷静に清掃できる人間は少ない。
個人的な見解を付す。当施設は当時、3階の一般トイレが改装工事中で、フロア唯一の多目的トイレに利用が集中していた。金曜夜、忘年会シーズン。条件は揃っていた。
防災センターに連絡し、清掃業者の緊急対応を依頼。作業完了は23時40分。作業員は終始無言であり、私も無言で立ち会った。互いに語るべき言葉がなかった。
なお、当該利用者と思われる人物について、21時50分頃、1階正面口付近を腹部を押さえて走るスーツ姿の20代後半と思われる女性を目撃したとの同僚の証言がある。コートの前も留めず、ヒールを両手に持って、ストッキングのまま走っていたという。特定には至っていない。特定する気もない。ヒールを脱ぎ捨てる判断に至るまでの、エスカレーターと通路での攻防を想像すると、他人事ながら胸が詰まる。誰にでも限界はある。限界は、場所とタイミングを選ばない。
ただ一言だけ云わせてもらえば、備え付けの清掃用シートで最低限の処理をしてから退出してほしかった。それだけだ。以上、報告とする。
― この話は、これにて ―
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※ 掲載されている話は、読者投稿・創作をもとにした読み物(フィクション)です。実在の人物・団体・場所とは一切関係ありません。
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