汲み取り式トイレの隣室から聞こえた、男の断末魔と安堵の声
今回はキャンプ場の汲み取り式トイレで遭遇した事件です。高規格キャンプ場に慣れた人ほど食らうやつなので、共有しておきます。
場所は山奥の古いキャンプ場。サイトはいいんです、静かで、星がきれいで、テントを張る場所も広い。ただしトイレは男女共用の個室2つ、もちろん汲み取り式。夜は電灯に虫が集まるタイプのやつです。この情報、予約サイトには小さくしか書いてません。あの警告文は本当に大事なのに。
夜22時ごろ、自分が片方の個室で小を済ませてたら、外からサンダルの足音が猛ダッシュで接近してきました。砂利を蹴散らす音で分かる、あれは相当な緊急事態です。走り方が悲鳴を上げてる。人間、本当に切羽詰まると、足音から余裕が消えます。
ドアがバァン!と開いて隣の個室へ。ガチャガチャと鍵の音、ベルトの金具の音、布の擦れる音、そして間に合ったのか怪しいタイミングで始まる、盛大な音。壁が薄いので全部聞こえます。あれは我慢の限界を数秒過ぎてたと思います。壁越しに、あきらかに破綻した音が。おそらく炊き火サイトの宴会で、酒とカレーとホルモンあたりのトリプルコンボをキメて、テントで横になった瞬間に来たパターンです。経験者なので分かります。あの時間差。
隣から「ああ〜……」っていう、地の底から響くような安堵の声が聞こえてきて、自分は笑いを堪えるのに必死でした。声を出したら負けなので、口を押さえて肩だけ震わせてました。あの数分間、個室2つの汲み取り式トイレは、確かに戦場でした。そこは男たちの最後の砦なのだと感じました。
手を洗って外に出たら、しばらくして隣の個室から、宴会グループの一人らしきおじさん(40代くらい、Tシャツにショートパンツ)が出てきました。目が合って、無言で会釈されました。自分も無言で会釈を返しました。あの会釈の意味は今でも分かりません。「聞いたな」なのか、「生きて帰れた」なのか。多分両方だと思います。
教訓:キャンプの夜、酒とカレーとホルモンのトリプルコンボは膀胱じゃなくて腸に来る。トイレの位置と個室の数は、設営前に必ず確認しましょう。そして古いキャンプ場の汲み取り式は、隣の人の人生の断面を教えてくれます。以上、現場からでした。
― この話は、これにて ―
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※ 掲載されている話は、読者投稿・創作をもとにした読み物(フィクション)です。実在の人物・団体・場所とは一切関係ありません。
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