氷点下の深夜、白い湯気が立ちのぼるのを見たくて
一月の半ば、都心でも氷点下になった夜。忘年会も新年会も終わって、残業だけが平常運転で残った深夜一時半。息が白い。マフラーに顔を埋めて歩きながら、私はもう、今夜どこでするかだけを考えていた。オフィスを出た瞬間から、頭の中の地図には公園と緑道と河川敷の候補地が並んでいた。
真冬の野外は正直つらい。しゃがんだ瞬間、夜気が素肌を刺す。それでも行ってしまうのは、一度見てしまったからだ。真冬にだけ立つ、あの湯気を。
場所は貯水池のそばの遊歩道、常緑樹の陰。歩いている間にも下腹の圧はどんどん重くなっていて、信号待ちのたびに膝を寄せ、内ももに力を込めて耐えた。寒さのせいなのか我慢のせいなのか分からない震えが、太もも全体に広がっていく。吐く息が白く広がって、視界の端に溶けていくのを見ながら、私は自分の限界と対話するように歩数を数えた。あと百歩、あと五十歩。
途中、コンビニの灯りが見えて一瞬心が揺れたけれど、レジ前の店員さんの視線を思うと足が止まった。結局そのまま通り過ぎて、遊歩道の入口へ向かう。凍りついた街路樹の枝が風に鳴る音だけが、静まり返った夜に響いていた。下腹の圧は歩くたびに一段階ずつ強くなっていって、私はコートの前をきつく合わせながら、最後の直線を急いだ。
手袋を外すのももどかしくストッキングを下ろすと、太ももが一瞬で鳥肌になった。寒い。寒いのに、体の中心だけが熱を持って疼いている。限界まで我慢してきたから、始まりは一気だった。凍った土を叩く音と一緒に、白い湯気がぶわっと立ちのぼった。街灯の逆光の中で、それは自分の体から抜け出した魂みたいに、ゆらゆらと夜空へ昇っていく。きれいだ、と場違いなことを思った。
長く長く続くその時間、下腹の圧が少しずつ消えていくのと引き換えに、太ももの震えが快い痺れに変わっていくのを、私はじっと味わっていた。体の熱が音になって、湯気になって、冬の夜に解放されていく。遠くで貯水池の水面が風に揺れる音がして、それが自分の呼吸のリズムと重なる瞬間があった。
一分半の白昼夢ならぬ深夜夢。終わったあとも、しばらくその場にしゃがんだまま、昇りきった湯気の残り香のようなものを見つめていた。貯水池の水面が黒く静まり返っていて、私の吐く息の白さだけが、その静寂の中で唯一動いているもののように思えた。
立ち上がる頃には膝が寒さで固まっていて、帰り道はロボットみたいな歩き方になった。太ももの内側がまだじんじんと痺れていて、一歩ごとにその痺れを確かめるように歩いた。マフラーの隙間から入り込む冷気に首をすくめながらも、体の芯はまだどこか熱を持ったままだった。
風邪を引いたら世界一ばかな理由だと思う。でもたぶん、また行く。あの白い湯気を、もう一度見たいから。この冬があと何回、私をあの遊歩道へ連れていくのか、自分でもまだ分からない。マンションの部屋に戻って湯船に浸かった時、指先の感覚がじんわりと戻ってくるのを、今夜もまた不思議な満足感とともに味わった。
― この話は、これにて ―
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※ 掲載されている話は、読者投稿・創作をもとにした読み物(フィクション)です。実在の人物・団体・場所とは一切関係ありません。
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