デパートのバーゲンでの悲劇
初冬の正午過ぎ、年に一度のクリアランスセールで大混雑する老舗デパトの婦人服売り場でのことだ。館内は異様な熱気に包まれており、暖房の効きすぎと人の多さで、冬場とは思えないほど空気が淀んで息苦しい状態だった。
……その時、上りエスカレーターの列に並んでいた、荷物をたくさん持った女性が目に入った。
彼女は30代前半の品のある奥様風で、高級感のあるベージュのカシミヤコートに、白いシルクのプリーツスカートを合わせていた。足元はダークブラウンのロングブーツを履いており、髪は艶やかにまとめてパールピンで留められていた。その端正な顔立ちには丁寧なメイクが施されていたが、額には大粒の汗が浮き出ており、ハンカチで何度も拭うたびに上品なファンデーションがヨレて崩れてしまっていた。両手にはブランドの紙袋をいくつも抱えていたが、その指先は強張り、爪が白くなるほど強く握りしめられていた。
最初は買い物の疲れかと思ったが、彼女の不自然な歩き方とお尻を庇うような姿勢を見て、強烈な便意に襲われているのだと確信した。
エスカレーターのフロア周辺のトイレは改装工事中で閉鎖されており、次の階まで行かなければならない。さらにエスカレーターは人でギューギュー詰めになっており、途中で降りることも追い越すこともできない過酷な檻だった。彼女はブーツの中で両足をぴっ��りと閉じ、お尻の括約筋に力を込めるようにして、腰を少し落とした姿勢でジタバタとステップを踏んでいた。
その張り詰めた様子を見た瞬間、私の心臓は大きくドクンと跳ね、彼女の白いプリーツスカートの揺れと、限界を迎えた足元に目が釘付けになった。
便意の第二波、第三波が襲うたび、彼女は「あ、ぅ……」と小さく声を漏らし、持っていた紙袋を両手で下腹部に強く押し当てるようにして上半身を丸めた。見てはいけないと思うのに、私は息を殺し、エスカレーターの上で必死に足を震わせて耐え忍ぶ彼女の太ももの震えを見つめ続けていた。
上の階に到着した瞬間、彼女は持っていた紙袋の一つを床に落としてしまい、それを慌てて拾い上げると、カニ歩きのような不自然な姿勢のままトイレへと急ぎ足で消えていった。
今でもデパートのクリアランスセールの混雑に遭遇するたび、あの時の彼女の歪んだ表情と、ベージュのコートの裾から覗いていた震えるブーツの動きを思い出して胸が熱くなる。
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※ 掲載されている話は、読者投稿・創作をもとにした読み物(フィクション)です。実在の人物・団体・場所とは一切関係ありません。
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