役員エレベタ前での焦燥
秋の夕方6時過ぎ、都心の本社ビルの30階にある役員エリアのエレベーターホールでのことだ。私は重要な役員会議の報告を終え、取締役の社長と一緒に1階のロビーまで降りるためにエレベーターを待っていた。
最初の異変は、エレベーターを待つランプが点灯した瞬間に訪れた。下腹部をぎゅっと収縮させるような、突然の冷たい尿意の第一波だった。会議中に冷たいお茶を何杯も飲み干したことと、張り詰めた緊張が完全に裏目に出てしまった。
私は白いシルクブラウスに、黒のタイトスカート、そして薄手のストッキングに黒のパンプスを履いていた。髪はシニヨンにまとめていたが、急激な尿意に襲われた瞬間から全身に鳥肌が立ち、冷や汗が首筋を伝ってブラウスを濡らした。資料を挟んだバインダーを握る右手は緊張で強張り、指先は白くなっていた。社長の隣で、ストッキングを履いた両脚をきつく交差させ、内ももをこれでもかと密着させて耐えた。
社長が目の前で重要なプロジェクとについて語りかけており、その話を遮って離席することは絶対にできないという社会的檻が私を縛り付けていた。
エレベタはなかなか到着せず、尿意は波のように何度も押し寄せ、徐々に括約筋の限界を脅かす凶悪な第二波、第三波へと成長していった。お腹の中が決壊寸前の風船のようになり、少しでも体勢を変えれば、社長の目の前で温かいものを漏らしてしまうという圧倒的な絶望感が襲う。「あと3分……ロビーに着くまで……」と脳内で時間を逆算し、必死に耐え忍んだ。
恥ずかしさと極限の恐怖で心臓の音が異常に大きく響き、耳の奥が熱くなって呼吸が浅くなっていった。
ようやくエレベーターが1階に到着した瞬間、私は社長にお辞儀をして見送り、内股を引きずるようにしてロビーの奥の女子トイレへ駆け込んだ。個室の便座に腰を下ろし、熱いものを一気に解放した瞬間の、全身の細胞が弛緩するような心地よさは今でも忘れられない。
今でも役員フロアの静寂を感じるたび、あの時の冷や汗の感触と、社長の前で必死に足を震わせて耐えていた極限の感覚を思い出して股の奥がすくむ。
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※ 掲載されている話は、読者投稿・創作をもとにした読み物(フィクション)です。実在の人物・団体・場所とは一切関係ありません。
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