新幹線の無情なアナウンス
出張帰りの金曜日の夜8時過ぎ、私は東京行きの新幹線の指定席に座っていた。週末の車内はサラリーマンや旅行客でほぼ満席で、ビールの缶を開ける音や話し声が静かに響いている。 最初の異変は、名古屋駅を出発した直後のことだった。下腹部の奥底で、何かが激しく暴れ回るような鋭い痛みが走った。 昼間、出張先で食べた脂っこいラーメンが、新幹線の揺れによって急激に私の胃腸を刺激し始めたのだ。
「うそ、これから新横浜までノンストップなのに……」 私は背中に冷たい汗が吹き出るのを感じた。シートの座面に押し当てられたお尻の奥で、第一波の便意が容壊的な勢いで膨れ上がる。 すぐにでもトイレに駆け込みたいが、新幹線のトイレは各車両の端にしかなく、私の席からは数両離れている。さらに、通路には自由席からあふれた立ち乗りの乗客がぎっしりと並んでおり、そこを押し分けて進むのは極めて困難だった。 この満員の車内で、お腹を押さえて苦しそうにトイレを探す姿を晒したくないという強い社会的なプライドが、私を座席に縛り付けていた。
便意の波は容赦なく押し寄せ、引くことを知らない。第二波が来ると、私は膝をピタリと合わせ、両足の太ももをこれでもかと締め上げた。 スーツのタイトスカートがきつく張り、ストッキングの中で足の指先を丸め、必死にお尻の括約筋をコントロールした。 額から流れる脂汗が頬を伝い、せっかくのメイクがじわじわと崩れていく。 「あと30分……新横浜に着くまで耐え抜くんだ」と自分に言い聞かせるが、車内の空調が暖かく感じられ、便意をさらに加速させる。
私はシートの上でモゾモゾと姿勢を変え、両手で膝の上のハンドバッグをギュッと下腹部に押し当てた。 「神様、お願いします、時間を早めてください」 頭の中で狂ったような時間計算と祈りをくり返したが、新幹線の滑らかな走りは今は憎らしく思えるほどだった。 お腹の激痛の波が来るたびに、私の背筋はピンと伸び、息が浅く、そして速くなった。心臓が耳元でトントンと激しく鼓動を刻み、喉の渇きが限界に達していた。 もし今ここで決壊してしまったら、私のビジネスパーソンとしての尊厳は完全に死ぬ。その絶望的な結末への恐怖が、私をギリギリのところで支えていた。
「まもなく、新横浜です……」 ようやくのアナウンスが流れた瞬間、私は弾かれたように立ち上がったが、下腹部に激痛が走り、腰が引けた不自然な姿勢で一瞬固まってしまった。 立ち乗りの乗客の間を縫うようにして、お尻をかばいながらデッキへと急ぐ。 ドアが開く同時にホームへ飛び出し、駅の女子トイレへと競歩のような速度で直行した。 個室の扉を閉め、便座に滑り込んだ瞬間の、あの全身がとろけるような解放感は一生忘れられない。 今でも新幹線に乗るたび、あの夜の高速で移動する密室での限界の戦いを思い出して股の奥がキュンと引き締まる。
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