朝の地下鉄遅延
梅雨時の蒸し暑さが体にまとわりつく6月の朝8時半過ぎ、東京メトロ半蔵門線の通勤快速電車の車内でのことだ。悪天候による遅延のため、電車は駅と駅の間のトンネル内で完全に立ち往生してしまった。満員の車内はエアコンの冷房が追いつかず、乗客たちの体温で蒸し風呂のように息苦しかった。
乗車する前に駅のホームの自販機で冷たいお茶を飲み干したのが完全に災いしたのだろう、電車が停止して間もなく、下腹部の奥深くでツンと刺すような鋭い尿意の第一波が走った。 「すぐに動くだろう」とタカをくくっていたが、無情にも「前を走る電車が急停車したため、安全確認に時間を要します」という車内アナウンスが流れ、絶望が私を襲った。
私はその日、上品なライトグリーンのシフォンブラウスに、黒のストレッチタイトスカート、そして薄いベージュのストッキングにヒールの高い黒のパンプスを合わせていた。髪は後ろで一本のハーフアップにしていたが、尿意の焦燥感から全身に噴き出した冷や汗で額の髪がベタつき、首元がじっとりと濡れて皮膚にはりつく。綺麗に仕上げたメイクは冷や汗で浮き上がり、マスカラが滲んで目の周りが黒くなっているのが自分で分かった。
満員電車の密室という、絶対に逃げ出せない社会的状況が私を追い詰めていく。揺れる車内で乗客たちの肩がぶつかるたびに、膀胱へ激しい刺激が走り、私は思わず「ひっ……」と声を漏らしそうになり、奥歯を強く噛み締めた。
タイツの中で両腿をぎゅっと交差させ、内もも同士を強く押し付け合って耐える。しかし、尿意の波は容赦なく第二波、第三波と押し寄せ、尿道にかかる凄まじい水圧を括約筋だけで必死にせき止めている感覚だ。 「あと5分、あと1駅……」と、頭の中で狂ったように距離を計算するが、電車のスピードが落ちるたびに心臓が激しく脈打ち、焦りで頭が真っ白になった。
恥ずかしさと、この大衆の面前で今にも漏らしてしまいそうだという恐怖が混ざり合い、耳の奥が熱くなって喉がカラカラに渇いた。
ようやく電車が次の駅に滑り込み、ドアが開いた瞬間、私は周囲の乗客を押し分けるようにホームへ出たが、一歩を踏み出す衝撃でお腹の底が決壊しそうになり、その場で動けなくなった。涙目でカバンを下腹部に強く押し当て、がくがくと震える膝を内側に折り曲げ、すり足のような奇妙な歩幅でトイレへと急いだ。
個室の便座に座り、温かい水分が勢いよく放出された瞬間の、頭が真っ白になるほどの解放感。今でも地下鉄の急ブレーキ音を聞くたび、あの時の冷や汗の冷たさと、股の奥がキュンとすくむ恐怖が鮮明によみがえる。
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※ 掲載されている話は、読者投稿・創作をもとにした読み物(フィクション)です。実在の人物・団体・場所とは一切関係ありません。
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