船の展望デッキ
秋の冷たい風が吹き抜ける10月下旬、午後3時前の伊豆諸島へと向かう高速フェリーの展望デッキでのことだ。私は観光のためにデッキの柵の近くに立っていた。周囲は海原が広がり、激しい波しぶきと風の音が鳴り響いていた。
最初の異変は、出港してから30分ほど経った頃、下腹部の奥深くがギリギリと雑巾を絞るように激しく収縮したことだった。船の揺れと、乗船前に船酔い対策として飲み干した冷たいお茶が、この最悪のタイミングで私の腸内で猛威を振るい始めたのだ。
私はその日、黄色の軽量マウンテンパーカーに、グレーのストレッチトレッキングパンツを履いていた。髪はすっきりと一本のポニーテールに結んでいたが、腹痛による冷や汗で額の生え際からだらだらと汗が流れ落ち、首元に巻いたタオルを濡らしていた。船内のトイレまで距離があり、船の揺れで歩くのも困難という絶望的な状況だった。周囲には他の乗客が行き交っており、みっともない姿を見せられないという社会的檻が私をその場に縛り付けていた。
私は手すりを両手で引きちぎらんばかりに握りしめ、お尻の括約筋を極限まで締め上げながら、一歩一歩を踏みしめた。パンツの中で太ももをきつく擦り合わせ、腰を少し引いた前屈みの不自然な姿勢で歩く姿は、すれ違う人々から奇異の目で見られていたかもしれない。 「お願いだから早くトイレに着いて……」 脳内で何度も距離の計算を繰り返し、必死に自分と言い訳を交わした。しかし、便意の第二波、第三波は容赦なく襲ってきた。
恥ずかしさと、船内で今にも決壊してしまいそうだという恐怖が頭を支配し、心臓は早鐘のように脈打っていた。
ようやく船内のトイレの個室に滑り込んだ瞬間、私は便座に腰を下ろし、すべてを排出した瞬間の、全身の力が抜けるような熱い解放感。今でも船のエンジンの振動を感じるたび、あの時の冷や汗の冷たさと股の奥がすくむような恐怖を思い出す。
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※ 掲載されている話は、読者投稿・創作をもとにした読み物(フィクション)です。実在の人物・団体・場所とは一切関係ありません。
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