オフィスのエレベーター故障
蒸し暑い7月の午後5時半過ぎ、都心のオフィスビルのエレベーター内でのことだ。私は退社のために高層階からエレベーターに乗り込んだが、突然の落雷による停電で、エレベーターは途中の階で完全に停止してしまった。狭いカゴ内はエアコンの冷房が止まり、乗客たちの体温で蒸し風呂のように息苦しかった。
最初の異変は、急停車してから10分ほど経った頃だった。下腹部の奥深くで、ツンと刺すような鋭い尿意の第一波が走った。退社前にデスクで冷たいアイスコーヒーを二杯も飲み干したのが完全に災いしていた。 「救助まであと30分以上かかる」という館内アナウンスが流れ、絶望が私を襲った。
私はその日、上品な白のブラウスに、黒のストレッチタイトスカート、そして薄いストッキングに黒のパンプスを合わせていた。髪は後ろで一本のハーフアップにしていたが、尿意の焦りによる冷や汗で額の生え際が濡れて前髪が額にはりついてしまった。顔からは完全に血の気が引き、丁寧に仕上げたメイクが汗で崩れ、アイラインが滲んで目の周りが黒くなっているのが自分で分かった。
狭いエレベーターの密室という、絶対に逃げ出せない極限の社会的檻が私をその場に縫い止めていた。タイトスカートの中で両腿をぎゅっと交差させ、内もも同士を強く押し付け合って耐える。しかし、尿意の第二波、第三波が押し寄せるたび、私の背中はピンと跳ね上がるように強張り、そのたびに小さく「はぅ……っ」と熱い吐息が口元から漏れていた。
恥ずかしさと、乗客たちの前で今にも決壊してしまいそうだという恐怖が混ざり合い、心臓は早鐘のように脈打ち、頭の中が真っ白になった。
ようやく扉が手動で開けられ、救助された瞬間、私は乗客たちを押し分けるようにホームへ出たが、一歩を踏み出す衝撃で尿道が限界を迎えそうになり、その場で動けなくなった。涙目でカバンを下腹部に強く押し当て、がくがくと震える足元を支えながら、不自然な内股の姿勢でロビーの化粧室へと消えていった。今でもエレベーターに乗るたび、あの時の冷や汗の冷たさと股の奥がすくむ恐怖が鮮明によみがえる。
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※ 掲載されている話は、読者投稿・創作をもとにした読み物(フィクション)です。実在の人物・団体・場所とは一切関係ありません。
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