役員会議室の沈黙
蒸し暑い梅雨の日の午後三時、本社ビル最上階にある重厚な役員会議室でのことだ。私は議事録作成の補助として、壁際に置かれたパイプ椅子に座り、ノートパソコンのキーボードを静かに叩いて痛。会議室は最新の空調で冷やされていたが、極めて重要な年間計画の審議とあって、室内の空気は凍りつくように張り詰めていた。……その時、私の正面に座っていたマーケティング部のエース、倉持さんが視界に入った。
彼女はいつも通り、仕立ての良いストライプ柄のテーラードジャケットに、タイトな黒の膝丈ペンシルスカートを着用し、足元は艶やかに磨かれた黒の7センチヒールパンプスを履いていた。髪はきっちりと後ろでシニヨンにまとめられ、知的なメタルフレームの眼鏡をかけていた。しかし、社長からの鋭い質問が始まった直後、彼女の完璧なビジネスパーソンとしての姿に微かな綻びが生じた。
彼女の喉元がこくりと激しく動き、資料を持つ指先が小刻みに震え始めたのだ。額からは細かな冷や汗がにじみ出ており、綺麗に整えられていたファンデーションが脂汗でじわじわとヨレ、頬のチークが不自然に浮き上がっているのが至近距離からでもはっきりと分かった。下腹部を襲ったのは、冷房の冷気と緊張による猛烈な腹痛の第一波だった。
彼女はタイトスカートの下で、ストッキングを履いた内ももをこれでもかと密着させ、両脚を執拗に交差させて座っていた。パンプスの爪先を絨毯に強く押し付け、踵を交互にせわしなく上下させながら、お尻の括約筋を極限まで締め付けている。その限界状態のせいか、説明の声が徐々に上ずり、呼吸が荒くなって肩が上下に激しく揺れ始めた。お腹の中で暴れ回る泥水のような塊を、紙一枚の厚さの括約筋だけで必死にせき止めているのだろう。
「あと、あと10分……この議題が終わるまで……」と、彼女の唇はきつく噛み締められ、血の気が完全に引いて白くなっていた。役員たちがずらりと並ぶ重苦しい空気の中、もしここで途中退席すれば、これまでの準備もキャリアも一瞬で崩れ去るという社会的な圧力が、彼女を会議室の座席という名の檻に縛り付けていた。
便意の波は容赦なく第二波、第三波と押し寄せ、彼女のお腹の中でゴロゴロと不快な音を立てて波打った。彼女は思わず「くっ……」と声を漏らしそうになり、上体を深く折り曲げて机の下でベージュのブランドバッグをギュッと下腹部に押し当てた。眼鏡のレンズの裏で、彼女の目は涙で潤み、必死に焦燥のなかで時間計算を繰り返しているのが伝わってきた。
見てはいけないと思いつつも、彼女の太ももが限界の緊張でがくがくと震え、タイトなスカートの生地が激しく擦れ合う様子から目が離せなかった。私の心拍数は跳ね上がり、喉が乾いて息をするのも忘れるほどだった。
会議がようやく閉会した瞬間、彼女は丁寧な挨拶もそこそこに、資料を持ったまま、お尻をかばうように極端な内股の姿勢で立ち上がった。競歩のような不自然な早足で、廊下の奥の化粧室へと消えていった。今でも薄暗いバーのカウンターを見るたび、あの時の彼女の限界の震えと、漂っていた切迫した空気感を思い出して胸がゾクゾクと熱くなる。
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※ 掲載されている話は、読者投稿・創作をもとにした読み物(フィクション)です。実在の人物・団体・場所とは一切関係ありません。
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