大雨のタクシー車内
バケツをひっくり返したような大雨が降る6月の金曜日、午後6時半過ぎの都内幹線道路を走るタクシーの車内でのことだ。金曜日の帰宅ラッシュと大雨が重なり、道路は全く動く気配のない激しい渋滞に巻き込まれていた。最初の異変は、乗車してからわずか15分後の、下腹部に走ったツンと刺すような鋭い尿意だった。
「次の乗り換え駅まであと5駅……いや、この渋滞ではあと30分以上はかかるかもしれない」とタクシーの運転手に尋ねたが、答えは絶望的なものだった。車内は過剰な暖房と雨の湿気で蒸し風呂のように息苦しかった。
私はその日、ウール混の黒いノーカラーコートに、ダークブラウンのコーデュロイタイトスカート、そして黒の厚手タイツに5センチヒールのショートブーツを合わせていた。髪はハーフアップにしていたが、尿意の焦燥感から全身に噴き出した冷や汗で額の髪がベタつき、首元のウールマフラーがじっとりと濡れて皮膚にはりつく。ファンデーションは汗で浮き上がり、マスカラが滲んでパンダのようになっているのが自覚できた。
タクシーの車内という、途中で降りることも動くことも困難な社会的状況が、私を肉体的にも精神的にも限界へと追い詰めていく。揺れる車内で急ブレーキを踏まれるたびに、膀胱へ激しい刺激が走り、私は思わず「ひっ……」と声を漏らしそうになり、きつく唇を噛み締めた。
タイツの中で両腿をぎゅっと交差させ、内もも同士を強く押し付け合って耐える。しかし、尿意の波は容赦なく第二波、第三波と押し寄せ、膀胱は決壊寸前の水風船のように膨らみ、お腹の奥が痛む。 「あと10分、あと1キロ……」と、頭の中で狂ったように秒刻みの計算を繰り返すが、電車のスピードが遅くなるたびに心臓が激しく脈打ち、焦りで頭が真っ白になった。
恥ずかしさと、運転手さんの目の前で今にも粗相をしてしまいそうだという恐怖が混ざり合い、耳の奥が熱くなって喉がカラカラに渇いた。
ようやくタクシーが駅に到着し、ドアが開いた瞬間、私は周囲の乗客を押し分けるようにホームへ出たが、一歩を踏み出す衝撃で尿道が限界を迎えそうになり、その場で動けなくなった。涙目でカバンを下腹部に強く押し当て、がくがくと震える膝を内側に折り曲げ、すり足のような奇妙な歩幅でトイレへと這いずった。個室の便座に滑り込み、熱い液体が一気に放出された瞬間の、頭の芯がとろけるような凄まじい解放感。今でも大雨のタクシーに乗るたび、あの時の冷や汗の冷たさを思い出す。
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