高層ホテルのスカイラウンジ
肌寒い11月の金曜日、午後9時過ぎの都内超高層ホテルの45階にあるスカイラウンジでのことだ。店内は照明が極限まで落とされ、静かなジャズが流れる中で大人のカップルたちがグラスを傾けていた。最初の異変は、冷たい白ワインとチーズの盛り合わせを口にした直後だった。下腹部の奥深くで、ゴロゴロと不穏な便意の第一波が走った。
「すぐにトイレに行こう」と席を立ち、店の奥にある共同トイレへと向かったが、そこに広がっていたのは絶望的な光景だった。店内にトイレが一つしかなく、その前にはすでに2人の女性が並んでいたのだ。個室の中からは水音が聞こえず、誰かが長引きそうな気配を漂わせていた。
私はその日、デート用にお洒落をした、光沢のある黒のサテンブラウスに、タイトなベージュの膝丈スカート、そして黒のストッキングに高いピンヒールパンプスを履いていた。髪はエレガントなハーフアップにまとめられ、揺れるイヤリングが印象的だった。しかし、お腹の激痛が走るたびに顔から血の気が引き、目の前がチカチカと暗くなるのを感じた。
ラウンジの廊下という、すぐ横をデート中の客やスタッフが何度も行き交う社会的状況が、私を肉体的にも精神的にも限界へと追い詰めていく。並んでいる間、私はタイトスカートの裾を両手でギュッと握りしめ、お尻の括約筋を極限まで締め付けた。ストッキングを履いた両脚をこれでもかと密着させ、両膝を左右に激しくもじもじと揺らしながら、時折ピンヒールのつま先だけで床を強く踏みしめて耐えた。
便意の波は容赦なく第二波、第三波と押し寄せ、下腹部をギシギシと収縮させた。お腹のゴロゴロという不快な蠕動運動が廊下の静寂に消えることを祈りつつ、私は「あと3分、次の人が出たら私の番……」と、頭の中で狂ったように秒刻みの計算を繰り返した。額から流れる汗が頬を伝い、丁寧に塗ったチークを溶かしていく。顔面は完全に土気色になり、きつく噛み締めた唇は白くなっていた。
恥ずかしさと、大勢の人がいる廊下で今にも決壊してしまいそうだという恐怖が架空となって頭を支配し、心臓は早鐘のように脈打っていた。
ようやく個室の扉が開き、前の人が出てきた瞬間、私はお尻をかばう極端な内股の歩き方で個室に滑り込んだ。便座に座り、お腹の中の毒素が一気に放出された瞬間の、頭の芯が軽くなるような圧倒的な解放感。今でもスカイラウンジを見るたび、あの時の冷や汗と股の奥がすくむような恐怖を思い出す。
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※ 掲載されている話は、読者投稿・創作をもとにした読み物(フィクション)です。実在の人物・団体・場所とは一切関係ありません。
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