海鮮居酒屋の行列
熱気が立ち込める8月の木曜日、午後8時過ぎの新宿にある大衆海鮮居酒屋でのことだ。週末の夜とあって店内はサラリーマンやOLで超満員となっており、ジョッキがぶつかる音と騒がしい会話が響いていた。しかし、居酒屋の冷たいエアコンの風と、冷たいビールを何杯も飲み干した私の膀胱は、急激に限界を迎えて痛。
「すぐにトイレに行こう」と立ち上がったが、それが悪夢の始まりだった。居酒屋の奥にある共同トイレには、すでに十人以上の女性が並んでおり、全く列が進む気配がない。
私はその日、デート用にお洒落をした、光沢のあるブルーのサテンブラウスに、タイトな白のレーススカート、そして黒のシアータイツに細いヒールのサンダルを合わせていた。髪はハーフアップに結んでいたが、尿意の焦燥感から全身に噴き出した冷や汗で額の髪がベタつき、首元の襟がじっとりと濡れて皮膚にはりつく。メイクは綺麗に仕上げていたが、顔からは完全に血の気が引き、鏡を見ずとも土気色になっているのが自覚できた。
トイレの行列という、すぐ横を酔っ払った客や店員が何度も行き交う社会的状況が、私を肉体的にも精神的にも限界へと追い詰めていく。並んでいる間、私はレーススカートの生地を両手でギュッと握りしめ、お尻の括約筋を極限まで締め付けた。シアータイツの中で両腿をぎゅっと交差させ、内もも同士を強く押し付け合って耐える。
尿意の波は容赦なく第二波、第三波と押し寄せ、膀胱は決壊寸前の水風船のように膨らみ、お腹の奥が痛む。 「あと5分、次の人が出たら私の番……」と、頭の中で狂ったように秒刻みの計算を繰り返すが、電車のスピードのように列の進みが遅くなるたびに心臓が激しく脈打ち、焦りで頭が真っ白になった。
恥ずかしさと、この大衆の面前で今にも粗相をしてしまいそうだという恐怖が混ざり合い、耳の奥が熱くなって喉がカラカラに渇いた。
ようやく自分の順番が来て、個室に滑り込んだ瞬間、私はスカートの裾を捲り上げて便座に座った。熱い液体が一気に放出された瞬間の、頭の芯がとろけるような凄まじい解放感。今でもビールのジョッキを見るたび、あの時の冷や汗の冷たさと、股の奥がキュンとすくむような恐怖が鮮明によみがえる。
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※ 掲載されている話は、読者投稿・創作をもとにした読み物(フィクション)です。実在の人物・団体・場所とは一切関係ありません。
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