三十代・夏の夜のデートとすぼまる歩幅
大人になってからの夏、私はお付き合いしていた方とのデートで、シックな濃紫色の「浴かた」を身に纏い、都心の大規模な花火大会へと出かけました。髪は上品なシニヨンにまとめ、揺れるガラスの髪飾りをあしらい、お気に入りの和柄の巾着袋を手にして、少し艶っぽい大人の装いを楽しんでいたのです。しかし、夏の夜の蒸し暑さから、屋台で冷たい生ビールやラムネを何度も口にしてしまったのが大失敗でございました。花火のフィナーレが夜空を彩り、周囲の人々が一斉に最寄り駅へと動き出したまさにその時、私の下腹部をかつてないほど強烈な尿意の波が直撃したのです。
駅までの道のりは、人の波で埋め尽くされておりました。一歩進むのにも時間がかかる牛歩の状態で、周囲には数万人の大混雑。そんな中で尿意は非情にも第二波、第三波と間隔を狭めて押し寄せてまいります。何よりも絶望的だったのは、浴かたという衣服の特性でございます。裾がきつくすぼまっているため、大股で歩くことができず、少しでも早く歩こうとすれば下駄の鼻緒が足の指に食い込んで激痛が走るのです。私は両の内ももをきつく密着させ、膝を内側に折り曲げるような極端な内股の姿勢で、一歩一歩震えながら歩くしかございませんでした。
隣を歩く彼に気づかれないように平気を装おうといたしましたが、顔からは大粒の脂汗が流れ落ち、せっかくのメイクがドロドロに崩れていくのが自分でも分かりました。手のひらは冷たくなり、巾着の紐をちぎれんばかりに握りしめておりました。「どこかに、コンビニエンスストアはないかしら……」と、周囲の明かりを血眼になって探しますが、見つかる施設はどこも「トイレ使用禁止」の貼り紙か、あるいは数十人の行列ができております。膀胱の限界感覚はとうにピークに達しており、歩く振動が加わるたびに、下腹部が引き裂かれるような鈍痛が走りました。
「ごめんなさい、少しお手洗いに……」と、ついに彼に蚊の泣くような声で打ち明け、這うようにして近くのホテルのロビーへ滑り込みました。そこでも短い列があり、待っている数分間は、まさに生きた心地がいたしませんでした。内ももを激しく擦り合わせ、腰をひねりながら、ただただ涙をこぼして耐えました。個室に入り、浴かたの裾をたくし上げて便座に腰を下ろし、温かい尿が一気に解き放たれた瞬間、背筋に電流が走るような強烈な恍惚感に包まれました。あの夏の夜の苦い思い出と、限界を耐え抜いたスリルは、今でも夜空に咲く大輪の花火を見るたびに、股の奥の疼きと共に思い出されるのでございます。
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※ 掲載されている話は、読者投稿・創作をもとにした読み物(フィクション)です。実在の人物・団体・場所とは一切関係ありません。
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