社会人の春、ハーフマラソンの自己ベストへの執念
陸じょう部を引退し、趣味の市民ランナーとしてロードレースに参加するようになって3年目、3月のハーフマラソン大会でのことだ。この日の私は非常に調子が良く、自己ベスト更新を狙えるペースで軽快に走っていた。しかし、12キロ地点を通過したあたりで、冷たい春風にさらされ続けた体が急激に冷え、最悪の尿意の波が私を襲った。
「ここで仮設トイレに寄ったら、目標タイムより3分は遅れてしまう……」というランナーとしての執念が、私を走らせ続けた。
沿道には数キロおきに仮設トイレが設置されていたが、どれも5人以上の列ができており、立ち寄れば自己ベストの夢は潰える。私は額に冷や汗にじませ、サンバイザーから滴る汗を拭いながら、自分の膀胱と執拗な交渉を始めた。「次の給水所まで耐えろ」「あと少しでゴールだ」と自分に言い聞かせるが、走るステップの着地衝撃が膀胱の底をガンガンと突き上げる。着用している機能性タイツのコンプレッションが、限界近くまで膨らんだ膀胱を容赦なく締め付ける。両手を軽く握りしめ、前かがみのフォームでお腹を守るようにして、必死に内ももをすり合わせながら走った。
残り3キロ、尿意はもはや痛みに変わり、呼吸をすることすら困難なほどの激しい波となって襲いかかった。顔は苦悶で歪み、歯を食いしばりすぎて顎が痛い。もしここで漏らしたら、たくさんの観客やランナーの前で一生モノの恥をかくことになる。その恐怖で心臓がバクバクと早鐘を打ち、全身に鳥肌が立った。
なんとかゴールラインを駆け抜けた瞬間、私は完走の余韻に浸る余裕もなく、よろめく足取りで競技場内のトイレへと直行した。
個室に駆け込み、汗で張り付いたタイツを力任せに引き下げて便座に座った瞬間、堰を切ったように熱い放出が始まった。体が溶けてしまいそうなほどの快感と同時に、走りきった達成感が脳内で混ざり合い、言葉にできない官能的な興奮が全身を包み込んだ。今でもレースのスタートラインに立つたび、あの時の冷や汗と、ギリギリで耐え抜いたタイツの窮屈さを思い出して胸が熱くなる。
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※ 掲載されている話は、読者投稿・創作をもとにした読み物(フィクション)です。実在の人物・団体・場所とは一切関係ありません。
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