通勤電車の信号トラブルと無限の波
30代になり、仕事にも慣れて中堅と呼ばれるようになった冬の朝、私はいつもの通勤快速電車に乗っていた。前日の深夜まで及んだ残業の疲労と、駅の売店で買った冷たい缶コーヒーが引き金となり、私の胃腸は最悪の悲鳴を上げようとしていた。私は厚手のグレーのウールコートに、チャコールグレーのテーパードパンツを合わせていた。足元はフラットな黒のレザーシューズで、手には通勤用の革製トートバッグを提げていた。髪は一つに束ねていたが、電車内の暖房と冷や汗のせいで首の後ろがべたついていた。
最初の異変は、電車が駅と駅の間で突然停車した時だった。「前方を走る電車で信号トラブルが発生したため、しばらく停車します」という車内アナウンスが流れた瞬間、私の下腹部にズキリと重い便意が走った。
「よりによって、このタイミングで停車するなんて……」と絶望が脳裏をよぎった。快速電車のため、次の停車駅までは通常でも15分はかかる。その上、信号トラブルとなれば、いつ動き出すか全く予想がつかない。満員電車で身動きが取れない中、私は完全に「社会的檻」に閉じ込められてしまった。
停車から10分が経過した頃、本格的な「げり」の第二波が押し寄せ了。激しい差し込み痛にお腹が引き裂かれそうになり、私はトートバッグの持ち手を引きちぎらんばかりに両手で強く握りしめた。手の平は冷たい汗でびっしょりと濡れ、指先が凍りついたように冷たくなっていった。私は吊り革に掴まりながら、テーパードパンツの中で両脚を交差させ、内ももの筋肉を限界まで硬直させた。波が襲ってくるたび、括約筋を極限まで締め上げ、お腹の中で暴れ狂う波を必死に押し返そうと交渉を続けた。「次の駅に着くまで耐えたら、何でもするから」と、神に祈り続けた。
しかし、無情にも電車は動き出す気配を見せない。第三波、第四波と、便意の波は容赦なく襲いかかってきた。波の間隔が短くなるにつれ、私の顔は苦痛と焦りで引きつり、額から流れる汗がメイクをドロドロに溶かして目に入り、激しくしみた。パンツの生地越しに、冷や汗が太ももを伝っていくのがはっきりと分かった。もう限界だ、ここで全てを諦めてしまえばどれほど楽だろうかという誘惑と、大人の社会人として絶対にそれだけは許されないという尊厳の戦いが、頭の中でぐるぐると渦巻いていた。
停車してから30分が経ち、ようやく電車がゆっくりと動き出した時の、かすかな安堵と同時に襲ってきた最後の巨大な波には、本当に涙がこぼれそうになった。駅に滑り込み、ドアが開いた瞬間、私は周囲の乗客を押しのけるようにしてホームへ飛び出し、不自然な競歩のような足取りで改札内のトイレへ向かった。 個室の便座に腰を下ろし、全てを解放した瞬間、頭の芯がジーンと痺れるような快感が全身を駆け巡った。今でも冬の朝に電車の非常アラームを聞くたび、あのテーパードパンツの中で耐え抜いた限界の痛みを思い出し、胃の奥が痛む。
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