朝4時の山小屋トイレ渋滞で限界を迎えていた単独行の女性
山小屋のトイレは朝4時から5時が最も混む。ご来光前に出発する登山者が集中するためである。昨年の秋、涸沢方面のある小屋に泊まった際、その渋滞で限界を迎えている女性を見た。外気温は氷点下近く、吐く息がヘッドライトの光に白く浮かんでいた。
列は外まで延びて8人待ち。私の2つ前に並んでいた40代くらいの単独行の女性が、明らかに様子がおかしかった。ダウンジャケットに使い込まれたトレッキングポール、装備の様子から山慣れしたベテランと見受けられた。足踏みを繰り返し、前傾姿勢になり、時折ザックの腰ベルトを握りしめて動きを止める。眉間に深い皺が寄り、時折唇を強く結んでは開くのを繰り返していた。腹の方の限界だと一目で分かった。山の朝は冷える。冷えは容赦なく腹に来る。
女性は列が1人進むたびに顔を上げ、残りの人数を数えていた。3人、まだ3人。個室が開くたびに膝が少し折れる。両手を下腹にあてがい、体を左右に揺らし始めた頃には、こちらまで息を詰めて見守ってしまった。列の前に立つ人が長引くたびに、女性の肩がびくりと強張るのが分かった。あの数分間、女性の中では絶望と希望が交互に来ていたはずである。
ついに我慢の限界が近づいたのか、女性は片手で口元を覆い、もう片方の手で下腹を強く押さえた。額にはヘッドライトの光でも分かるほどの脂汗が浮かんでいた。5分ほどして女性は列を離れ、小屋の受付へ早足で向かっていった。その後ろ姿は小走りというより、内もものあたりを固く締めた独特の歩き方だった。事情を話して従業員用を借りたらしく、戻ってこなかった。
後で小屋の人に聞いたところ「ああいう方は月に何人もいますよ、女性の方は特にぎりぎりまで我慢されるので」とのことだった。バイト時代の自分の小屋でも同じだったのを思い出した。深夜から明け方にかけて、廊下を早足で行き来する足音が絶えなかったことを覚えている。山小屋のトイレ行列は、下界の比ではない切実さがある。皆も朝は早めに並んでおくことを勧めたい。あの女性の必死な後ろ姿は、今でも時折思い出す。
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