下山口の駐車場で見てしまった女子大生の失敗
上高地方面のある下山口での話である。昨年10月、下山して駐車場に着いたのは15時頃だった。気温が下がり始め、皆が上着を羽織り出す時間帯だった。登山口のトイレは工事中で仮設が2基のみ。そこに大学の山岳サークルと思しき男女6人のパーティーが下りてきた。
全員20歳前後、装備からして合宿の帰りだろう。日焼けした顔に疲労の色が濃く、それでも笑い合っている様子は青春そのものだった。うち女性の一人が明らかに切迫しており、頬を上気させ、仲間に「先いってて」と言い残して仮設トイレへ走った。ポニーテールを揺らしながらの早足は、傍から見てもただ事ではなかった。しかし2基とも使用中。彼女はドアの前で軽く跳ねるような動きをしながら、時計を確認するように腕を見ていた。太ももを何度もこすり合わせ、下腹に手を当てては離す動作を繰り返していた。
彼女は扉の前で足踏みしながら待っていたが、30秒ほどして急にしゃがみ込んだ。その動きは自分の意思ではなく、体が勝手に折れたように見えた。あっと思った時には遅かったようだ。
登山ズボンの色が変わっていくのが、車に荷物を積んでいた私の位置からも見えてしまった。彼女は泣きそうな顔で固まり、しばらく声も出せずにいた。駆け寄った同じサークルの女子がタオルで腰を隠してやっていた。声にならない声を漏らしていたのが、離れていても伝わってきた。3時間の下りで限界だったのだろう。周りの男子たちも気を利かせて車の方へ視線をそらしていたのが印象的だった。
山のトイレ事情は本当に厳しい。彼女の名誉のために言うが、あれは誰にでも起こり得る事故である。あの光景は今でもふと思い出す。仮設トイレの数を増やしてほしいと、あの日ほど切実に思ったことはない。下山直後というのは気が緩む分、体の限界も一気に表に出るものらしい。装備を解いた瞬間に力が抜けてしまうのは、登山者なら誰しも覚えのあることだろう。彼女たちのグループはその後、車に乗り込む前に何度も彼女に声をかけ、笑い合っていた。仲間の温かさがあったからこそ、あの出来事も彼女にとって悪い記憶ばかりにはならなかったのではないかと思う。
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※ 掲載されている話は、読者投稿・創作をもとにした読み物(フィクション)です。実在の人物・団体・場所とは一切関係ありません。
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