公衆トイレに紙がなかった38歳補欠の30分
自分の話で恐縮だが、これは書かねばなるまい。日曜の朝練前、河川敷の公衆トイレで用を足した(大きい方だ)。事が済んで振り返ったら、ホルダーが空だった。もぬけの殻。誰かが全て使い切ったのか、そもそも在庫がなかったのか、そんなことはこの瞬間には関係がないのです。予備もない。ポケットにはスマホと小銭だけ。冷たい和式の個室で、俺はしばらく現実を受け入れられず固まっていた。
窓から差し込む朝日がやけに眩しくて、状況とのギャップに笑えてきた。自分の下半身と、その状態を直視しながら、38歳という年齢の無力さを味わっていました。トイレットペーパーなしの個室とは、まるで難破船のようでした。
38歳、既婚、子持ち、会社では課長代理。その男が和式の上でスマホを握りしめ、チームのグループLINEに「誰か助けてくれ」と打った。既読3、返信なし。手が震えて誤字だらけになったメッセージを、何度も打ち直した。額には変な汗が滲み、脚はしびれてくるし、屈辱と焦りで頭がおかしくなりそうだった。「至急」とか「SOS」とか書いた気がします。状態そのもが絶望でした。
朝7時台の男どもは冷たい。10分後、ようやくキャッチャーから「ウケる」とだけ返ってきた。ウケてる場合か。個室の中で膝を抱えながら、俺は自分の惨めさと戦っていた。外から誰かが個室のドアをノックする音がするたび、心臓が跳ね上がった。トイレットペーパーの不足という原始的な問題が、現代人の尊厳を奪う瞬間でした。結局、監督が試合用のタオルを持ってきてくれて事なきを得たが、個室の外から「おーい、生きてるかー」と笑い混じりの声をかけられる屈辱は、いちようフルスイングで三振するより重かった。あのタオルは弁償した。当然だ。正当な報復として、監督に飲み物をご馳走した。
以来、俺のバッグには水に流せるティッシュが3つ入っている。備えあれば憂いなし。憂いはもう、あの朝に一生分経験した。河川敷を通るたび、あの公衆トイレの前で今も一瞬足が止まる。
― この話は、これにて ―
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※ 掲載されている話は、読者投稿・創作をもとにした読み物(フィクション)です。実在の人物・団体・場所とは一切関係ありません。
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