早朝の河川敷、ファウルボール探しで見てはいけないものを見た
日曜の朝6時半、試合前にチームで河川敷のゴミ拾いとボール探しをするのが恒例になっている。先週、俺は草むらの奥へ前日のファウルボールを探しに入った。で、見つけたのはボールではなく、しゃがんでいる女性だった。目が合う数秒前に、その姿を完全に理解してしまいました。
ジョギングウェアの30代くらいの人で、ポニーテールに引き締まった体つき、いかにも走り込んでいる風だった。手首にはランニングウォッチ、耳にはイヤホン。本格的に走り込んでいるランナーだと一目で分かる装いだった。茂みの陰、こちらに背中を向けて明らかに用を足している最中だった。距離にして7、8メートル。その距離は、プライバシーと現実の境界線でした。
水音まで聞こえる距離だ。俺は反射的にしゃがんで気配を消した。心臓が急に速くなって、息をひそめるのに必死だった。いや、隠れると余計に怪しいのだが、あの瞬間の正解を今でも思いつかない。頭の中では「今動いたら気づかれる、でもこのままも気まずい」という葛藤がぐるぐる回っていた。彼女は立ち上がってウェアを直すと、何事もなかったようにランニングを再開して行った。後ろ姿がすっと軽くなったように見えました。前の走りとは違う、文字通りの軽さでした。
戻り道の記憶が曖昧だ。チームの連中に「ボールあったか」と聞かれて「なかった」とだけ答えた声が、自分でも分かるくらい上ずっていた。あの水音が耳から離れなくて、その後のキャッチボールで球を二回続けて後逸した。
河川敷のトイレは6時まで施錠されている。ランナーには過酷な運用だと、あの日初めて知った。俺はその後もしばらく草むらでしゃがんだまま、朝日を浴びていた。妙に耳が熱くなっているのを自分でも感じていました。観察者であることと、証人であることの違いを考えていました。心臓の音がなかなか収まらず、しばらく突っ立ったまま朝日を眺めていました。
ボールは見つからなかった。失ったものは硬式球1個、得たものは早朝ランナーの悲哀への理解。いちよう収支はトントンということにしておく。あの日以来、河川敷の茂みに入るときは前より慎重になった気がします。
― この話は、これにて ―
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※ 掲載されている話は、読者投稿・創作をもとにした読み物(フィクション)です。実在の人物・団体・場所とは一切関係ありません。
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