深夜の道の駅。トイレまで持たなかった女性の話
北関東の道の駅。真冬の夜11時。おれは駐車所の隅にハイエースを停めて、寝る準備をしてた。外は氷点下。窓が内側から曇り始めてた。
そこに1台、白いセダンが滑り込んできた。停め方が雑だった。枠を斜めにまたいでた。急いでるのが分かった。エンジンを切る前にドアが開いた。
運転席から女の人が降りた。40歳くらい。ダウンにロングスカート、肩までの髪。買い物帰りの主婦って感じの人。ドアを閉める音が大きかった。トイレ棟まで50メートル。
彼女は走った。だが10メートルで急に止まった。膝をよじって、腰を落として、その場で数秒固まった。第一波。それをやり過ごして、また小走り。今度は20メートルもたなかった。二度目の停止はさっきより長くて、両手でスカートの上から押さえてた。深呼吸してるのが、白い息の間隔で分かった。その息がだんだん短く、細かくなっていった。あれは本物の間隔だ。
嫌な予感がした。トイレまであと30メートル。だが彼女の中で計算が崩れたんだろう。トイレじゃなく、手前の植え込みの陰に方向を変えた。即断だった。ためらいが一切なかった。あれは限界を超えた人間の動きだった。
しゃがんだ。ライトの死角だったが、音は冬の駐車所によく響いた。長い音だった。途中で一回弱まって、また強くなった。どれだけ我慢して運転してきたのか、音の長さが物語ってた。おれは寝たふりをした。窓は曇ってたから向こうは気づいてない。ただ、心臓が変にうるさかった。聞いちゃいけないもんを聞いてる自覚があった。
彼女は立ち上がって、周りを一度だけ見回して、何事もなかったように車に戻り、走り去った。トイレまであと30メートルだった。惜しい。だが責められない。
運転中の我慢は本当に限界がある。渋滞、暗い山道、次のトイレまでの距離。おれも他人事じゃない。あの雑な停め方を見た時点で、結末は決まってたのかもしれない。冬の道の駅は、いろんなもんを見せてくれる。
― この話は、これにて ―
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※ 掲載されている話は、読者投稿・創作をもとにした読み物(フィクション)です。実在の人物・団体・場所とは一切関係ありません。
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