高級割烹の商談席
桜の散り始めた4月の夜8時前、私は取引先との接待で、銀座にある格式高い高級和食店の個室にいた。掘りごたつの座敷は凛とした静寂に包まれており、高価な香の香りが漂っていた。最初の異変は、冷たい先付けとお造りを食べた後の、お腹の奥がゴロゴロと鳴る不穏な音だった。
「これからメインの焼き物と商だんの本番が始まるのに、今席を立つわけにはいかない」と自分に言い聞かせたが、冷たいビールが胃壁を刺激したのか、急激な腹痛が襲ってきた。
私はその日、上品なライトグレーのアンサンブルニットに、膝丈のタイトなフレアスカート、ストッキングという落ち着いた装いだった。髪は綺麗にハーフアップにし、真珠のネックレスをしていた。しかし、お腹の激痛が走るたび、全身から脂汗が噴き出し、背中がベタつくのを感じた。顔の血の気は一瞬で引き、丁寧に塗ったチークの下の肌は青ざめていた。掘りごたつの下で、私は両膝をきつく合わせ、足首をクロスさせてお尻の筋肉を限界まで引き締めた。手はテーブルの下で膝を握りしめ、爪が手のひらに食い込むほどの力が入っていた。激痛の第一波が去っても、腸の中のガスと便意が容赦なく次の波を形成していくのがリアルに伝わってくる。
相手の役員が熱心に事業計画を説明している最中、私は「はい……」「そうですね……」と生返事をしながら、頭の中ではお尻の門を閉じることだけに全神経を集中させていた。ここでトイレに立てば、この重要な商談の空気が壊れてしまうかもしれない。そのビジネス上の重圧が、私を座敷に繋ぎ止めていた。限界の波が襲うたび、下腹部がギシギシと痛み、私の額からは汗がポタポタと畳の上に落ちそうになった。声を出すと同時にお尻の力が抜けてしまいそうで、ただ喉を鳴らして耐えるしかなかった。息は細く短くなり、お腹の急激な下りに伴う鳥肌が全身の産毛を逆立たせていた。
社会的尊厳を失う恐怖と、極限状態で耐えるスリルが混ざり合い、脳裏が痺れるような高揚感を感じていた。
ようやく商談が一段落し、先方が席を外した瞬間、私は掘りごたつから這い出た。しかし、立ち上がった途端に腸が大きく動き、下腹部に凄まじい衝撃が走る。私はその場にへたり込みそうになりながらも、両手でお腹を抱え、内股のまま千鳥足で廊下を進み、店の奥の化粧室へ駆け込んだ。個室の便座に座り、お腹の毒素が一気に流れ出た時の、世界が救われたような解放感。今でも高級な和食の香りを嗅ぐたび、あの時の張り詰めた和室の空気と、お尻の奥の激しい痛みを思い出して胸がドキドキする。
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※ 掲載されている話は、読者投稿・創作をもとにした読み物(フィクション)です。実在の人物・団体・場所とは一切関係ありません。
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