滑走路の機内待機
むしむしとする8月の夕方6時前、私は満席の国内線航空機の機内にいた。離陸のために滑走路へ向かったものの、激しい悪天候のため管制塔から待機指示が出てしまい、飛行機は誘導路上で完全に停止してしまった。安全のため「しーとべると着用サイン」が点灯し、乗客は席を立つことを厳しく禁じられていた。最初の異変は、機内の冷房が冷たい風を私の足元に吹き付け始めた直後の、下腹部に走った急激な尿意だった。
「すぐに離陸するだろう」と自分に言い聞かせて我慢していたが、待機は10分、20分と延びていく。機内アナウンスで「あと30分は離陸許可が出ない見込み」と告げられた瞬間、私は絶望のどん底に叩き落とされた。
私はその日、旅行用の薄手のノースリーブの綿ワンピースに、薄いカーディガンを羽織り、サンダルを履いていた。足元が直接冷気を受け、膀胱を容赦なく冷やし続けていた。冷えと極限の緊張から、首筋や脇の下から冷たい汗が噴き出し、ワンピースの背中がじっとりと濡れていく。ハーフアップにしていた髪から汗が滴り、お気に入りのメイクが汗で崩れて、ファンデーションが白く浮き上がっていた。私はシートベルトがきつく食い込む座席の中で、両脚をこれ以上ないほど硬直させてクロスさせ、サンダルを履いたつま先をぎゅっと丸めた。隣に座る見知らぬ乗客に気付かれないよう、シートの肘掛けを強く握りしめ、指先が白くなるほど力を込めていた。
飛行機の座席という、動くことも立ち上がることも法的に禁じられた極限の社会的状況が、私を精神的に追い詰めていた。ここでルールを破ってトイレに立てば、乗務員に制止され、周囲の乗客から「マナー違反の乗客」として白い目で見られる。その羞恥心が、私をシートに縛り付けていた。しかし、尿意の波はもはや限界を超える第三波に達しており、下腹部を締め付けるような激痛が走るたび、私は小さく「うっ……」と呻き、涙を浮かべていた。背中を丸め、お腹を押し潰すようにしてシートベルトの下で必死に耐えるしかなかった。
社会的尊厳を失う恐怖と、限界を堪える気内でのスリルに、頭の芯がジーンと痺れるような熱さを感じていた。
ようやくシートベルトサインが消えた瞬間、私は座席から立ち上がった。しかし、体を伸ばした途端に膀胱が強く圧迫され、一瞬腰が抜けたように崩れそうになった。通路を通る際も、お尻をかばい、内股を硬直させながらすり足で機体後方のトイレへと急いだ。個室の便座に座り、温かい尿が一気に解放された瞬間の、魂が抜けるような圧倒的な解放感。今でも飛行機のシートベルトサインの電子音を聴くたび、あの時の冷や汗の感覚と、股の奥がキュンとすくむ恐怖を思い出す。
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※ 掲載されている話は、読者投稿・創作をもとにした読み物(フィクション)です。実在の人物・団体・場所とは一切関係ありません。
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