路地裏のプレミアム行例
二十三歳の春、社会人になって少し経った頃の土曜日のことだ。SNSで大流行していた路地裏の高級ベーカリーの限定クロワッサンを手に入れるため、私は午前九時の開店前に並び始めた。気温は十五度前後と心地よいはずだったが、日陰になっている細い路地には冷たいビル風が通り抜け、体感温度は低かった。私はベージュのトレンチコートの下に、タイトなデニムスカートと黒のストッキングを穿き、お気に入りのブランド物のショルダーバッグを肩にかけていた。髪は丁寧にハーフアップのくるりんぱにして、ゴールドのヘアアクセサリーを飾っていた。しかし、人気店の列は遅々として進まなかった。
並び始めて一時間が経過した午前十時前、下腹部にじんわりとした不快な熱が灯った。最初の尿意の波だった。「買い終わるまであと三十分くらいのはず……」。しかし、焼き上がりの遅れからか、列の進みは想定よりも遥かに遅い。私の前後にはおしゃれに着飾った女性たちやカップルが並び、静かにスマートフォンを操作している。この洗練された空間で、恥を忍んで列を離脱し、周囲の冷ややかな視線を浴びながらコンビニを探しに行く勇気はなかった。私はトレンチコートのボタンを一番上まできっちりと留め、腕組みをするふりをして、両手で下腹部を強く押し付けた。
午前十時半、尿意は明確な敵意を持って私の膀胱を攻撃し始めた。第二波だ。下腹部が引き裂かれるような鈍痛が走り、私は無意識のうちにトレンチコートの裾の中で両太ももをきつく擦り合わせ、交差させた。手の平には冷たい脂汗がじわりとにじみ、ショルダーバッグのチェーンを握る指先が白くなるほど強張っていた。私は心の中で自分と「契約」を結んだ。「ここまで一時間半も並んだのだ。クロワッサンを手に入れるまでは絶対にここを動かない。私の尊厳と美味しいパンのために、この尿意をねじ伏せる」。私は背筋をピンと伸ばし、上品な姿勢を保とうと必死だったが、脚は小刻みに震え、足元を不自然に前後させて重心を移し続けるしかなかった。
午前十一時、ついに店舗の入り口近くまで進んだが、私の尿意はとうに限界の第三波に達していた。膀胱は破裂寸前の水風船のようにパンパンになり、一歩動くたびに中身が漏れ出しそうな鋭い刺激が走る。私はデニムスカートの中で内ももをこれでもかと締め付け、腰を少し引いた前傾姿勢になっていた。冷や汗で入念に仕上げたファンデーションが浮き上がり、チークも汗で滲んで悲惨な状態だった。顔の筋肉は限界の痛みに歪み、きつく食いしばった奥歯が小さくカチカチと音を立てていた。周囲の話し声が雑音のように遠のき、頭の中では「あと三人、あと二分……」と狂ったようにカウントダウンを繰り返していた。
「私ならできる、契約を守れ……」。心の中で呪文のように唱えながら、ついに自分の番が来てクロワッサンを購入した。商品を受け取った瞬間、私はお礼を言う元気もなく、ガニ股を必死に隠した内股のすり足で、最も近い商業施設の化粧室へと急いだ。
個室に滑り込み、ストッキングを引き下げて便座に座った瞬間、熱い解放感が一気に解き放たれ、体中の水分がすべて抜けていくような感覚に襲われた。激しい快感とともに涙がこぼれ落ちた。今でも街中でおしゃれな店の長い行例を見かけるたびに、あのクロワッサンの甘い香りと、下腹部を襲った絶望的な尿意の戦いを思い出して、腰の奥がジーンと熱くなる。
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※ 掲載されている話は、読者投稿・創作をもとにした読み物(フィクション)です。実在の人物・団体・場所とは一切関係ありません。
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