逃げ場なき高速バスの渋体
二十六歳の秋、実家への帰省のために利用した夜間の高速バスでのことだ。十月の週末、連休の初日ということもあり、バスは満席だった。私は窓側の席に座り、リラックスできるゆったりとしたロングスカートにスウェットを合わせ、足元はスニーカー、髪は後ろでゆるくお団子にまとめていた。車内にはトイレが設置されていないタイプの格安バスだったが、通常であれば二時間に一度のペースでサービスエリアでの休憩が設定されているため、何も心配はしていなかった。しかし、その夜、関東近郊の高速道路で起きた大規模な多重事故が、穏やかな帰省の旅を最悪の悪夢へと変貌させた。
事故処理と連休の混雑が重なり、高速道路は完全にストップした。テールランプの赤い光の列が夜の闇の中に延々と続き、バスは一歩も動かなくなった。異変が起きたのは、最初の休憩予定時刻を過ぎた午後十時半頃だった。乗車前にコンビニで買ったペットボトルのお茶を飲み干していたのが災いし、下腹部の奥で尿意がじわじわと鎌首をもたげ始めた。「次のサービスエリアまであと少しのはず……」。しかし、運転手からのアナウンスは残酷だった。「事故渋体の影響で、次のサービスエリア到着は未定です」。車内に重苦しい空気が流れる。
私は窓ガラスに額を押し当て、暗闇を見つめながら自分自身と「最終契約」を交わした。「ここで運転手さんに『降ろしてください』と頼んでも、高速道路の真ん中で降りるわけにはいかない。隣にも見知らぬ乗客が寝ている。恥をかくくらいなら、絶対に次の停留所まで耐え抜いてみせる」。午後十一時半、尿意は第二波に移行し、激しい痛みを伴うようになった。シートの上で体を丸め、両手で下腹部を抱え込むようにして必死に圧迫を避けた。冷や汗が全身から噴き出し、ロングスカートの生地を握りしめる手の平は汗で濡れていた。お団子に結んだ髪からほつれた毛が、汗ばんだ首筋にはりついて気持ち悪かった。
日付が変わった午前零時すぎ、バスは依然として渋体の中にあり、私の尿意は完全に生理的限界を超えた第三波に突入していた。膀胱は今にも引き裂かれそうに膨張し、心臓の鼓動と連動してドクンドクンと痛みを放っている。私は座席の狭いスペースの中で、両足を交互に交差させ、太もも同士をこれでもかと強く押し付け合って震えていた。顔面は蒼白を通り越して土気色になり、苦痛で眉を限界までひそめ、涙が頬を伝い落ちていた。息を吐くたびにヒィと喉が鳴り、括約筋を少しでも緩めればその瞬間に大惨事になることは目に見えていた。車内の静寂と隣の乗客の寝息という社会的な檻が、私に声を上げることを許さず、ただ暗闇の中で悶絶し続けるしかなかった。
「あと十分、あと五分だけ動いて……」。神への祈りと、自らとの契約を呪詛のように呟き続けた。限界を超えた我慢の中で、尿意の痛みと奇妙な脳の興奮が混ざり合い、意識が朦朧としていく。
午前一時前、ようやくバスが臨時のサービスエリアに滑り込んだ。ドアが開くと同時に、私は隣の乗客に謝りながら通路へ飛び出し、ガクガクと震える膝を押さえ、内股のまま便所へと走った。
個室の便座に座り、限界まで溜まった尿を一気に解き放った瞬間、頭の芯が痺れるような凄まじい快楽が全身を突き抜けた。今でも夜間の高速道路で渋体のアナウンスを聞くたびに、あのバスのシートの冷たい感触と、息もできないほどの尿意の絶望感を思い出して、股の奥が熱く座く。
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※ 掲載されている話は、読者投稿・創作をもとにした読み物(フィクション)です。実在の人物・団体・場所とは一切関係ありません。
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